声楽とボーカルって何が違う?〜自由に揺れるということ
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声楽とボーカルって何が違う?〜自由に揺れるということ

歌手にとってクラシックとポップスの違いってなんでしょう? まず思いつくのはレパートリーや発声法ですね。しかしその他にも重要な違いがあるんです。それは「速度記号」の存在です。

STEP:1 クラシックとポップスの違いって?

歌を学びたいと思った時、まず初めに選ばなければいけない二択。それが「声楽」か「ボーカル」かです。
一般的に日本では「声楽」と言ったとき、それはクラシックの歌唱を指し、「ボーカル」と言ったときはポップス(ポピュラー音楽)を指します。

しかしそもそもクラシックとポップスの違いって何でしょうか? レパートリー? 発声法? もちろんそれもありますね。
クラシカルな作曲法で書かれた曲を歌うのがクラシック、現代的な作曲法ならポピュラー。
伝統的な発声法なら声楽、そうでないならボーカル。
この違いも合っているでしょう。しかし今回はもう一つ、重要な違いについて説明します。
それは「テンポの揺れ動き」です。

そしてこれは声楽家の大きな悩みの一つにつながっているのです。

STEP:2 ポピュラー音楽にとっての「テンポ」

まずはポップスの話をしましょう。
大体の場合、ポップスは1曲を通して一定のテンポ(=曲の速さ)で演奏されます。そしてそのテンポからズレてしまうと「ハシってる!」とか「モタってる!」とかいう言葉で怒られます。
これは歴史的に見ると、現在「ポピュラー」と呼ばれている音楽は、その源流にジャズを持っているからです。この記事では深く言及しませんが、ジャズでは基本的にテンポを一定に保つことが前提とされています。その流れを汲んだポピュラー音楽もテンポを重要視するんですね。

そんなポピュラー音楽では大体の場合、テンポを「bpm」という言葉で表します。これは “beats per minute” の略で「1分間にいくつビート(拍)が入るか」を表します。例えば「120 bpm」だったら、1分間に120個ビートが入る、つまり、1秒で2拍ですね。

STEP:3 クラシック音楽にとっての「テンポ」

ではその一方で、クラシックの楽譜を見ると、こんな記号たちが登場します。これらのことは「速度記号」と呼びます。

これらは全て、その曲のテンポを示しています。
上の方にある、数字で表せるものは親切です。「1分間にその長さの音符がいくつ入るか」を示しているので、数字で決まっています。「bpm」と同じ意味です。

しかし、それ以外が曲者です。
例えば Grave は「重々しく」、Andante は「歩く速さで」、Vivace は「活き活きと」など、数字では表せない指示が書いてあります。
これらに加えて accel.「だんだん速く」、rit.「だんだん遅く」など、何だか大雑把です。
「感じ方は人それぞれなんだから、これじゃ速度も人ぞれぞれになっちゃうじゃん!」と思いますよね?
その通りなんです!

慣例として Grave は 40~42 bps、Andante は60~76 bps など、なんとなく決められていますが、これらも幅がありますし、絶対ではありません。じゃあどうやって演奏の速度を決めるのか?
それはもちろん、あなたの感性です!

クラシック音楽にとっての「テンポ」

STEP:4 声楽家はわがまま言って良い!

その楽譜を見て「このくらいのスピードで歌いたい」と思ったなら、それが正解。それが声楽の世界です。
「だんだん速く」を始めるタイミングや「程よく伸ばす」の長さなども歌い手次第です。さらには、速度記号が書いていない部分でもテンポを揺らすことなんてザラにあります。
試しにYoutubeなどでクラシック声楽曲を調べて、歌手ごとに聴き比べてみてください。結構テンポに幅があることがわかると思います。
そう、クラシック声楽では、曲のスピードは歌い手の思うがままなのです。

そんなわけでクラシック声楽家はそれぞれ、「この曲はこのスピードで歌いたい」「この部分は思い切りテンポを揺らして歌いたい」というこだわりを持っています。そして実際演奏するときは、このこだわりにピアニストが合わせて臨機応変に演奏を動かすことになります。
しかしそうなると出てくるのが「一人で演奏できない」という問題です。

STEP:5 声楽家の悩み

実際、声を出して練習するだけなら一人でできるんです。しかし、ピアノ伴奏がないと、いかんせん実際の演奏の感覚が掴めない。けれどカラオケやYoutubeの伴奏だと、自分の思い通りのテンポで歌えない。だからと言って自分で弾こうとすると歌に集中できない。
さらには一人でステージの上に立つことができない。誰かピアニストに伴奏を頼まなければいけないけれど、依頼するにもお金がかかる。ピアニストとのスケジュールを合わせるのも一苦労。

と、こんなふうにクラシック声楽家は致命的な問題を抱えています。そして残念ながらこれを解決する手段は特にありません。これが声楽を習い始める大きなハードルの一つになっていることは事実です。
強いて言うなれば、頭の中でピアノ伴奏を想像しながら練習する、くらいです。

STEP:6 おわりに

とにかく、クラシック声楽とポピュラーボーカルの違いを説明しました。音楽を自分の好きなように動かして歌うのは気持ち良いものです。
みなさんも興味があれば(そしてピアニストが近くにいれば)ぜひ声楽に挑戦してみてくださいね!

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